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建設業の見積書における「法定福利費」の扱い
下請け企業に勤めていると、元請けから「見積書に法定福利費を明示してください」と要求された経験を持つ方も少なくないでしょう。果たして、なぜこのような要求が来るのでしょうか? また、そもそも法定福利費とは? こうした、建設業の見積もりにおける法定福利費について、今回は解説を行います。
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1.法定福利費とは?
まずは、そもそも法定福利が何なのかについて解説しましょう。
企業や個人事業主は従業員を雇用すると、社会保険と労働保険の加入が義務づけられます。前者は健康保険や厚生年金保険、介護保険などが該当します。一方後者は、雇用保険や労災保険のことです。これらにかかる保険料は、会社と従業員がそれぞれ一定の割合で負担します。
たとえば、平成30年度における東京都の健康保険料は、給与の9.90%です。うち半分は従業員が負担し、残り半分となる4.95%が会社負担になります。こうした会社負担分となる保険料のことを「法定福利費」と言い、福利厚生のひとつとして扱います。
ちなみに、法律上加入が義務化されていない福利厚生については、「法定外福利厚生」として扱い、費目については「福利厚生費」と呼びます。
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2.カットすることはできない法定福利費
社会保険・労働保険への加入が義務づけられている以上、法定福利費はカットできない費用です。では、どのような場合に保険加入義務が生まれるのでしょうか?法人における加入要件について、簡単にまとめます。
健康保険・年金保険
正社員の場合には原則加入義務があります。また、アルバイト・パートであっても、常用的な雇用であれば加入義務が生じます。
雇用保険
一定以上の勤務日数・時間を超えていれば原則加入義務があります。ただし、法人の代表者については加入できません。
労働保険
従業員を雇用した場合、加入が義務づけられます。なお、社会保険と違い、会社側は従業員を包括的に加入させなくてはなりません。
このように、法人が従業員を雇った場合は一部の例外を除いて必ず社会保険・労働保険への加入が義務になります。これは同時に、法定福利費の支払いが生じるということです。
法定福利費に含まれるもの
法定福利費には、以下の費用が含まれます。
健康保険料
健康保険とは、従業員やその家族が加入する保険で、病気やけがをした際にかかった医療費の自己負担が軽減される保険です。
健康保険料の負担は、従業員と企業で半々になります。
厚生年金保険料
厚生年金保険とは、企業に勤める人や公務員が加入する年金です。厚生年金保険に加入している「適用事業所」で常時使用される70歳未満のすべての人が加入することが規定されています。
厚生年金保険料も、保険料の負担は、従業員と企業で半々になります。
介護保険料
介護保険とは、65歳以上の高齢者が、介護が必要と認定された場合、サービスを受ける際に介護費の自己負担が軽減される保険です。
40歳になると、被保険者として介護保険に加入し、介護保険料を支払い始めます。
介護保険料も、保険料の負担は、従業員と企業で半々になります。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金とは、子育て支援のために徴収される税金で、国や自治体が行う子育て支援事業にあてられます。
子ども・子育て拠出金は、企業が全額、負担します。
以上の4つの費用は「社会保険料」と呼ばれるものです。
雇用保険料
雇用保険とは、従業員が離職や休職した際に給付を受けられる保険です。失業の予防や、雇用状態の是正などにもあてられます。
雇用保険料は従業員と企業で負担しますが、その比率やそもそもの保険料率は、業種によって異なります。
労災保険料
労災保険とは、従業員が業務中や通勤の際に病気やけがをしたり、障害を負ったり、死亡した場合に、従業員やその家族が給付を受けられる保険です。
労災保険の保険料率は業種によって異なりますが、企業が全額負担します。
以上の2つの費用は「労働保険料」と呼ばれるものです。
3.平成25年から「法定福利費込の見積書の提出」がスタート
建設業界には長きにわたり、社会保険未加入問題がありました。とくに、末端下請けとなる中小・零細企業では、社会保険・労働保険への加入義務があるにもかかわらず、未加入状態のまま従業員を雇用し、事業を継続しているところも多いと言われています。
この問題を解決するために、国は平成25年から「法定福利費込の見積書の提出」を求めることで、保険未加入対策を推進することを決めました。国土交通省が発表している「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」には、以下のような指針が示されています。
「平成29年度以降、適切な保険(雇用保険・健康保険・厚生年金保険)に未加入の作業員は、特段の理由がない限りは現場入場を認めないとの取り扱いをすべき」
つまり、現在の建設業界では、加入義務のある保険に入っていない会社は仕事自体ができない、とまで言えてしまいます。見積書に法定福利費を明示するのは、その加入状況を把握するためなのです。
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4.法定福利費の計算方法
それでは最後に、法定福利の計算方法について簡単にご紹介していきます。以下は、東京都の法人にかかる平成30年4月以降の法定福利費割合です。
- 雇用保険料率:0.8%
- 健康保険料率:4.95% ※
- 介護保険料率:0.785 ※
- 厚生年金料率:9.15% ※
- 子ども子育て拠出金:0.23%
ただし、上記はあくまで東京都におけるパーセンテージです。※印については地域によって率が異なります。また、年度でも変更になりますので、必ずご自身の地域における最新の情報を調べてください。
個人事業主の場合は率が異なることも
もし個人事業主で、かつ常時従業員を5人以上雇っていないという場合であれば、社会保険への加入は任意です。一方、雇用保険については「週20時間の労働」と「契約期間31日以上」を満たしていれば、1人の時点から加入が義務づけられます。これらを踏まえると、5人以下を雇っている個人事業主の場合に必要となる保険料は雇用保険料のみ。つまり、0.8%のみです。
法定福利費の計算方法
法定福利費は、現場作業員の労務費をもとに計算します。
そのため、法定福利費を計算するには、まず労務費を算出する必要があります。
労務費の計算方法
労務費は、法定福利費のほか、完成工事原価を算出する際にも必要になります。
労務費は、当該工事に必要な人数と、平均日額賃金を掛け合わせて求めます。
必要な人工数×平均日額賃金
各法定福利費の計算
算出した労務費をもとに、各法定福利費を計算していきます。
・健康保険料
労務費×健康保険料×1/2
・厚生年金保険料
労務費×厚生年金保険料率×1/2
・介護保険料
労務費×介護保険料率
・子ども・子育て拠出金
労務費×子ども・子育て拠出金率
・雇用保険料
労務費×雇用保険料×負担割合
・労災保険料
労務費×労災保険料率
5.法定福利費を扱う際の注意点
法定福利費を扱う際は、下請け企業、元請け企業がそれぞれ次の点に注意する必要があります。
下請け企業の注意点
下請け企業は、法定福利費を見積書に記載する際、概算ではなく、上記のような計算方法を用いて正しく詳細な金額を記載するように注意する必要があります。
同時に、従業員の保険未加入があれば放置することなく、法令に沿って対応しましょう。
元請け企業の注意点
元請け企業は、下請け企業から見積書を受け取る際に、法定福利費がきちんと記載されているかどうかを確認する必要があります。
もし、未記載の場合は、依頼している下請け企業が従業員を保険に加入させていない可能性もあります。契約を結ぶ際に、法定福利費の重要性について下請け企業と確認し合うことも大切です。
6.まとめ
「法定福利費込の見積書の提出」は、義務に従い社会保険・労働保険へきちんと加入している企業にとって、大きな助けとなりました。また、保険未加入でやり過ごしていた企業にとっては、労働条件改善のよい機会ともなったでしょう。人件費算出には多少手間がかかるものの、法定福利費だけであれば見積もりも手間ではありませんので、元請けから要求された場合も焦らず対応してください。
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