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【テクノロジー別】建設業でのIT活用アイデア集 後編
人手不足とともに高齢化が深刻化する建設業界では、ITを活用した革新が進められています。国土交通省も建設現場の生産性向上を支援するためのプロジェクト「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を展開。IoTやAIなどの最新のテクノロジーを活用することで、現場作業員の負担を軽減し、作業の効率化を図ることが可能です。建設業界でのIT活用の事例などを紹介します。
目次
1.IoT
IoTとは、Internet of Things(モノのインターネット)の略で、さまざまなモノがインターネットとつながることを意味します。インターネットにつながることで、あらゆるモノをスマホやタブレット、PCから操作でき、情報を得られるようになります。
建設現場のIoT化が進むと、現場の生産性や作業効率が飛躍的に上昇することが期待されます。設備機器にIoT化されたセンサーを付けてリアルタイムで監視する、あるいはドローンをスマホで操縦しての測定・分析、人が入れない危険な現場でのロボットによる作業、重機の操縦を自動化することも全てIoTに当たります。
コマツは、KOMTRAX(コムトラックス)というシステムを使い、全世界に展開する建機40万台をネットワークでつないで24時間監視、遠隔制御しています。GPSで建機1台ごとの所在を認識しており、万が一暴走や盗難といったトラブルが発生した場合は、遠隔操作でエンジンを即時停止できます。
さらに、最新鋭のICT建機「PC200i」は、サポートセンターからのガイドに従って操作することで、誰でも簡単に現場作業を進めることが可能です。免許を取ったばかりの新人技術者でも、オペレーター経験数年レベルの作業を行うことができます。
東急建設は千葉県内のICTモデル現場で、IoT技術を駆使した施工管理を実践・実証しています。ヘルメットにカメラを設置してリアルタイムに事務所とやり取りができ、タブレットで配筋検査の記録を、スマホで杭芯位置を確認。車両の到着予定時間をPCに表示する建設機械ナビシステム、騒音や振動を測定しPCに表示する建設環境モニタリングシステムなど、これまで個別に導入・検証した先端技術を総合的に検証しているのが特徴です。
2.自己修復型コンクリート
自己修復型コンクリートとは、コンクリートの中に人工的な装置やバクテリアを埋め込み、ひび割れを自己修復するもので、実用化に向けた研究が国内でも活発に行われています。
コンクリートを打設するときに、接着材を含んだマイクロカプセルを混入させたり、パイプを張り巡らせて特殊な接着剤を定期的に流し込んだりすることでひび割れを修復するコンクリートのほか、セメントに代わる結合剤としてバクテリアや菌類(カビの一種)を使い、自分でひび割れをなおす自然治癒力を高めたものもあるのです。形状記憶合金を鉄筋として使うことで自動的に回復するコンクリートも研究されています。
高度成長期にコンクリートでつくられた建造物が、建設から半世紀を迎え、修復や大規模補修が必要な時期となっています。メンテナンス作業には、使用規制や通行止めなどの休止期間が必要で、使えない期間が長引くと大きな経済損失を招くことになりかねません。しかし、自己修復型コンクリートであれば使用したままの状態で修復できるため、休止期間を設ける必要はありません。
北海道の會澤高圧コンクリートは、自己修復型コンクリート材の量産技術を確立し、2020年11月から本格的に国内生産を開始しました。2017年からオランダのデルフト工科大学とバクテリアの代謝機能を活用した自己治癒コンクリート技術を共同開発しており、世界に先駆けて大量供給の道を切り開いたのです。
自己修復型コンクリートの研究開発は世界中で進んでいます。社会インフラの劣化が深刻化するアメリカでは、今後有効な対策が施されなければ2025年までに約4兆ドルの損失がもたらされると言われています。ニュージャージー州ラトガース大学の研究チームは、コンクリートの中で発芽し、成長する菌類を発見し、菌類を結合剤として用いることでコンクリートを修復する研究を行っています。
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3.ロボット工学
ロボット工学とは、ロボットの設計、製作、制御に関する技術を研究する学問分野で、ロボティックスとも言います。産業用ロボットに代表されるように、ロボットはインターネットにつながったセンサーから様々なデータを収集し、AI(人工知能)で処理して動く、という形が一般的です。製造業の工場では24時間フル稼働でロボットが働いており、介護や医療の現場など、幅広い分野で活用されています。
建設業で求められるのは、現場の状況の変化に柔軟に対応できる高度な判断機能を備えたロボットです。ロボットによる資材の運搬や施工など、スーパーゼネコン各社を中心に「RX ロボティクス トランスフォーメーション(Robotics Transformation)」実現に向けた取り組みが急速に進んでいます。
大成建設は千葉工業大学と共同で、交差する鉄筋を針金で留める作業を繰り返し行うロボット「T-iROBO® Rebar」を開発しました。鉄筋工事は技術者の高齢化などの課題があり、作業の効率化が求められていた分野だったのです。鉄筋工事のおよそ2割を占める鉄筋結束作業を自動化することで、生産性の向上が期待されています。
鹿島は、大阪市の竹延との共同で、壁面吹付塗装ロボットを開発し、2020年11月から実際の工事に初めて適用しました。塗装ロボットは、熟練塗装工の同じくらいの品質を確保できる技術を持っており、塗装作業の全体に要する作業量が、人による従来の作業量と比べると約3割削減できたのです。
4.GPS
GPSとは、「Global Positioning System」の略称で、「全地球測位システム」と日本語訳されます。地球を周回している複数の人工衛星からの電波をスマホなどの端末が受信し、位置、距離、時刻などを計算して、地球上の現在位置を正確に割り出します。グーグルマップやカーナビでおなじみのITテクノロジーです。
ドローンで測量した3次元データと、GPSで割り出された重機の位置情報から山を削る角度や距離を算出し、作業員は、モニターを見ながらショベルカーを操縦する、という光景は建設現場ではもはや当たり前になってきました。GPSは建設現場でなくてはならない存在になっており、スマホやタブレットなどに入っている位置情報取得システムを利用すれば、作業員や重機、ダンプカーなどの居場所を即座に把握できます。
現場作業員の勤怠管理システムにも、GPSは使われています。GPS打刻は、スマホやタブレットの専用のアプリケーションから打刻してもらう仕組みで、作業員が現場から打刻すると「いつ」「どこで」出退勤したかという情報を把握できます。従来のタイムカードや手書き日報による管理と比べると、入力ミスや入力漏れを防止でき、より正確な勤務記録を残すことが可能です。
日建リース工業が開発した簡易位置情報管理システム「トランシーカー(QS-200010-A)」は多機能GPSトラッカーを使って、工事用車両などの最新位置や移動履歴をクラウド上で管理できるシステムです。これまでは運転手が日報で運行履歴を記録していましたが、システムを活用することで、車両位置がリアルタイムで管理でき、日報作成も支援してくれます。
5.まとめ
危険な作業や肉体的にも精神的にも負担のかかる作業が多い建設現場では、ITテクノロジーは欠かせなくなっています。IoTやAIなどを活用すれば、手間のかかる作業が効率化でき、本当に必要な作業に人員を割り振れるようになります。ITテクノロジーは作業員の安全確保や設備機器の保全、維持管理に役立つ技術として、さらに導入が進んでいくと考えられています。積極的に取り入れて、働きやすい環境をつくっていきましょう。
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