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【テクノロジー別】建設業でのIT活用アイデア集 前編
自然災害による復興事業、首都圏再開発、老朽化したインフラ整備にタワーマンションなど、国内の建設需要が高まる中、建設業界には新しいITテクノロジーの波が押し寄せています。高齢化と人材不足が深刻化する建設業界の助っ人ともいえるICTツールが続々と登場し、建設現場は最先端の働きやすい職場へと変革しつつあります。ここでは、ドローンを使った実地調査、VRを活用した危険予知訓練など、建設業界で広がるIT活用のアイデアや実際に活用している国内外の事例を紹介します。
1.ドローン
建設現場でのドローンは、現場の撮影と測量の場面で多く活用されているほか、空撮写真から現場の3Dモデルの作成、工事の進ちょく管理や建造物の点検、造成工事や道路工事などの切り土、盛り土の度量計算などに使われています。
積水ハウスは2019年から、ドローンやロボットを活用した戸建て住宅の点検システム「スマートインスペクション」をスタートしました。先進IT機器を複数組み合わせて遠隔で診断する点検システムは、住宅業界で初めてです。戸建て住宅の定期点検の際に、ドローンと床下点検ロボット、小屋裏点検ロボットカメラから送られる画像から専門スタッフが不具合を判定します。
ドローンは屋根の状態を上空から撮影するために使われます。これまでは高さ11.2メートルの竿状高所カメラで撮影していましたが、地上に設置した高所カメラを屋根面ごとに動かして撮影しなければならず、高さや角度にも限界がありました。ドローンを導入したことで、これまでは不可能だった角度からの画像が取れるようになったそうです。
イスラエルのソフトウェア開発の企業である「vHive(ブイハイブ)」は2018年、携帯電話基地局の点検をドローンによって完全自動化するシステムを発表。現在、多くの電気通信事業者が導入し、1か所当たりの点検時間を30〜40分に短縮することに成功し、作業に関わる人員も減らすことができました。
2.VR
VRとは、Virtual Reality(バーチャルリアリティー)の略称で「仮想現実」という意味です。VR技術によって仮想空間に建設現場を再現し、現場作業員の研修や安全衛生教育を行ったり、危険認知や設計の検証を行ったりするために導入する建設会社が増えています。
建設現場に潜む危険を繰り返し疑似体験することは、安全や危険予知・回避、リスク軽減のために重要です。転落や墜落、感電、ローラー車による事故、感電など、実際の研修では再現が難しい事故や災害であっても、仮想空間ならリアルに体感できます。大林組の「VRiel(ヴリエル)」、明電舎の「災害体感VR」など、独自の教育システムを開発して社員研修に活用している会社もあります。
三徳商事が開発した、危険体感教育教材「RiMM(リム)」は、VR映像による5感再現(視覚・聴覚・触覚・臭覚)により危険感受性を高めるソフトウェアです。建設現場の様々な危険を再現し、人間が直感的に感じる怖さを呼び覚まします。つくし工房のVR教材「VR事故体験・安全教育Lookca(ルッカ)」は、被災者の目線で事故や災害を再現した、迫力のあるリアルな映像が話題です。
現実世界では見えないものでもVR上では見えることができます。熊谷組は2018年に目に見えないビル風を立体的に可視化するシステムを開発しました。本社ビル周辺のビル風を解析し、VR技術を組み合わせることによって視覚的にとらえたもので、ビル風の原因をより正確・簡単に把握できるようになったのです。
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3.HMD
HMDは、ヘッドマウントディスプレイの略称で、頭部に装着するディスプレイ装置のことです。ゴーグル型のVR(仮想現実)用、AR(拡張現実)用、MR(複合現実)用と、眼鏡タイプのモニターの4種類あります。
日本建設業連合会などが2019年にまとめた調査によると、回答した会社の半数がすでにHMD装置を導入しており、VR用のHMDは設計・施工段階、保守・点検段階、安全教育研修など、幅広く利用され、AR用やMR用は施工段階で利用されているようです。
三井住友建設は、導水路トンネルの調査・点検業務において、MR用のHMDなどを活用し、現実空間に補修履歴や調査・点検記録を3D画像として表示させ、リアルタイムに現状と比較できるトンネル・メンテナンス・ナビゲーションシステム「MOLE-FMR(モール-Field Mixed Reality)」を開発しました。静岡県富士宮市内の導水路トンネル調査・点検で利用した結果、作業時間を半減することに成功しています。
新潟県の小柳建設は、ホロストラクションというMRソフトを開発しています。マイクロソフト社が開発したMD用のHMD「Hololens(ホロレンズ)」を使い、設計図面を現実世界に3D画像で表示し、施工状況や細部を上下左右から見ることができます。投影した図面の中を歩いたり、図面の尺度を変えたりすることも可能で、道路や橋など土木工事の地元説明会で、ホロストラクションを使って完成予想図を見てもらうと住民の理解を得やすく、安心感が違うようです。
4.AI
AI(人工知能)とは、Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)の略称で、さまざまな分野において急速に導入が進んでいます。日本建設業連合会などが2019年にまとめた調査によると、回答した会社の半数以上がAIの活用に取り組み始めたばかりで、ドローンやHMDの導入と比べるとこれからの分野ですが、時短や省力化・生産力の向上に期待が寄せられています。
建設業界には、AIを活用する場面が多く存在します。ドローンで空撮した建設現場の画像をAIが事前学習することによって、現在の工事の進ちょく度合を判定することや、クレーンなどの重機にカメラを取り付け、作業員の検知など安全面を徹底管理した上でAIが自動で重機を操縦する、といった活用方法もあります。
JIPテクノサイエンスは、東京大学と共同でひび割れなどの舗装路面の異状検出を行うシステムの研究開発に取り組んでいます。車から撮影した動画からひび割れなどの損傷のほか、パッチング、ジョイントなどの平たん性を損ねる状態(異状)を検知し、道路上の位置を認識します。
八千代エンジニヤリングは、河川のコンクリート護岸の劣化状況をAIで検知できるアルゴリズムを開発しました。洪水などの対策として重要な役割を担うコンクリート護岸の点検・改修業務においては、従来は熟練した技術者の目視点検が必要でしたが、撮影した画像からひび割れなどの劣化の有無を自動で検知できるようにしたところ、作業現場での対応工数を5分の1に削減できたそうです。
大手ゼネコンの竹中工務店は、AIを積極的に導入しています。2017年から構造設計AIの開発を手掛け、2019年にはAIを使った空間制御システムの実証実験もスタートしました。さらに、AIによる画像認識技術を使い、現場写真の自動分類仕分けにも取り組んでいます。これまでは建築作業の全工程の写真を現場作業員が撮影し、報告書を作成していましたが、現場で撮った写真を画像認識AIが解析し、どの工程の写真かを自動で認識することによって、現場監督者への報告の手間が1人につき1日当たり約2時間減らすことができました。
5.まとめ
これまでの建設現場は、熟練の作業員の経験によって支えられてきましたが、高齢化や人手不足が進み、これまで通りのやり方だと立ち行かなくなってしまします。最先端のIT機器やAIなどをうまく活用することで、経験の浅い作業員でも熟練工と同様の働きができるようになります。作業の効率化や生産性向上に役立つITテクノロジーを積極的に導入すると、建設現場がより安全に、働きやすくなり、新しい人材も入ってくることでしょう。
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