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ややこしい2つの基準…「工事進行基準」と「工事完成基準」の違い

建設業においては「工事進行基準」という会計方式が原則適応とされています。他方で、「工事完成基準」という会計方式もあります。両者の違いを理解することは、建設会社経営の基本的な知識です。
こちらでは、工事進行基準と工事完成基準の違いや、工事進行基準のメリット・デメリットについてお話します。併せて、工事進行基準の会計処理や具体的な仕訳例についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
1.工事終了後に売上と経費を計上する「工事完成基準」
工事完成基準とは、長期請負契約に適応される会計方法のひとつです。工事が終了した時点での会計期に売上と経費を計上します。従来の土木・建築・建設業では一般的だった会計方法です。工事終了までに発生した費用は「未成工事支出金」として計上されます。売上は工事終了まで計上されません。工事終了の会計期まで累積された未成工事支出金を売上の差額が、事業者の利益です。
工事完成基準は会計上の確実性が高い一方で、プロジェクトの終了まで赤字が判明しないといった問題が生じることも少なくありません。クライアント側の不明瞭な依頼内容に対し、「どんぶり勘定」になりやすいという側面もあります。こうした理由から請負側にとっては常にリスクが懸念されていた方法です。
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2.工事を進めながら計上も進めていく「工事進行基準」
工事進行基準は、工事終了までの期間の中で売上や経費を分散して計上する計上方式です。欧米諸国では、日本で普及する以前から工事進行基準が一般的でした。2009年の4月1日以降は、日本でも原則適応の計上方式として採用されています。一般的に、土木・建築・建設業、またソフトウェアの制作受注業で適応される会計方式です。
工事進行基準を適応するためには「工事収益総額」「工事原価総額」「工事進捗度」という3つの要素を、高い信頼性で見積もり可能なプロジェクトである必要があります。工事収益総額、工事原価総額については、正確な見積もりは容易です。一方、工事進捗度は客観的な把握が難しい要素です。こちらには一般的に、原価総額に対するその時点での原価から判断する「原価比例法」という方法が用いられています。
3.工事進行基準のメリット
工事進行基準は、工事終了までに複数回計上を行います。一方、工事完成基準は完成後の一回のみ計上を行うため、中間に発生した修正や注文などにより生まれた赤字が最後に明るみに出ることがありました。工事進行基準は追加の注文に対してその都度請求できるため、完成後に大幅な赤字が出ることはありません。同時にクライアントの不明瞭な依頼を防げるというメリットもあります。
クライアントによる恣意的な要求を減らす効果もあるため、無駄な残業も減少します。リソース管理の最適化や、職場環境の改善といった効果も期待できるでしょう。相次ぐ要求によって発生する納期遅れを警戒するストレスも軽減されます。
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4.工事進行基準のデメリット
工事進行基準は工事完成基準に対し客観性やシンプルさで劣っています。そのため、クライアントに対しては入念な事前説明が必要です。このことから、契約の合意に至らず、機会損失につながってしまう可能性も考えられます。
また、計上の機会が増えるため、請負側にとっては単純にそのぶんの負荷が増加します。進捗度に関しても常に把握しておかなければなりません。組織全体として、工事進行基準を受け入れる体制を整えておかなければ適応は困難でしょう。
工事事業者側が享受できる多くの恩恵から評価されている工事進行基準。一方で、現段階ではまだ曖昧さや課題点を残している方式です。適応の際には、こうしたデメリットを理解しておく必要があります。工事完成基準との違いや、工事進行基準のメリット・デメリットを正確に理解しておくのが大切です。
5.工事進行基準の会計処理
次に、工事進行基準の会計処理を行う際のポイントについて解説します。
工事進捗度を適切に把握する
工事進行基準の会計処理で、売上高を算出するには、まず工事進捗度を適切に把握することが重要です。前述のとおり、工事の進捗度を把握するためには「原価比例法」を用います。
原価比例法では、工事原価総額に対し、決算日までに生じた原価の割合を以下の計算式で算出して、工事進捗度を求めます。
【工事進捗度の計算式】
・決算日までに発生した原価/工事原価総額=工事進捗度
工事進捗度を求めた後は、以下の計算式を用いることで売上高を算出できます。
【売上高の計算式】
・工事収益総額×工事進捗度=売上高
工事の途中で、工事原価総額などに変更が生じた場合は、しっかりと反映する必要があります。
工事損失引当金を計上する
工事損失引当金とは、工事において損失が発生する可能性が高く、その金額を適切に見積もりできる場合に計上する引当金のことです。これを計上する際は、工事損失部分から、当該工事契約ですでに計上した損益額を控除した残額を計上します。
工事損失引当金の計上は、工事進捗の程度にかかわらず適用できます。ただし、税務上の費用としての損金算入は認められていないことに留意が必要です。
6.工事進行基準の仕訳例
ここからは、工事進行基準の具体的な仕訳例を紹介します。今回は、以下の条件で、原価比例法を適用した場合の仕訳例を見ていきましょう。
【条件】
・工事収益総額:1億円
・工事原価総額:6,000万円
・工事期間:3年
上記の条件をもとに、初年度から3年目までの仕訳例を以下に示します。
初年度の仕訳
・初年度の発生原価:1,500万円
・工事進捗度:25%(1,500万円÷6,000万円)
・工事売上高:2,500万円(1億円×25%)
初年度では、発生原価が1,500万円、工事進捗度が25%、工事売上高が2,500万円となりました。初年度の発生原価や売上高を仕訳すると、以下のようになります。
【発生原価を売上原価に計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
売上原価 | 15,000,000 | 現金預金 | 15,000,000 |
【売上高を計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
工事未収入金 | 25,000,000 | 売上高 | 25,000,000 |
2年目の仕訳
・2年目の発生原価:2,700万円
・工事進捗度:70%((1,500万円+2,700万円)÷6,000万円)
・工事売上高:4,500万円(1億円×70%-2,500万円)
上記のとおり、工事進捗度や工事売上高を計算する際は、初年度の金額も使用します。2年目の仕訳例を以下に示します。
【発生原価を売上原価に計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
売上原価 | 27,000,000 | 現金預金 | 27,000,000 |
【売上高を計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
工事未収入金 | 45,000,000 | 売上高 | 45,000,000 |
3年目の仕訳
・3年目の発生原価:1,800万円
・工事進捗度:100%((1,500万円+2,700万円+1,800万円)÷6,000万円)
・工事売上高:3,000万円(1億円×100%-2,500万円-4,500万円)
最後に、3年目の仕訳例を紹介します。なお、2年目と同じように、工事進捗度や工事売上高を求める際は、過去の金額を計算に含めています。
【発生原価を売上原価に計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
売上原価 | 18,000,000 | 現金預金 | 18,000,000 |
【売上高を計上する仕訳】
借方 | 貸方 | ||
工事未収入金 | 30,000,000 | 売上高 | 30,000,000 |
7.まとめ
工事進行基準は、工事を進行させながら計上も都度行う会計方式です。メリットとして、クライアントから追加注文を受けた際に都度請求できたり、不明瞭な注文を防げたりすることが挙げられます。一方、計上業務による負担が発生するおそれもあるので、自社の受け入れ体制を整えておくことが大切です。
また、工事進行基準の会計処理を行う際は、工事進捗度を適切に把握して売上高を算出するほか、工事損失引当金が発生した場合は計上することに留意しておきましょう。仕訳では、発生原価や工事進捗度、工事売上高を求めた上で、「売上原価」や「工事未収入金」などの勘定科目を使って仕訳を行います。
今回ご紹介した仕訳例も参考に、ぜひスムーズな会計処理にお役立てください。
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