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標準労務費とは?下請契約・労務費しわ寄せ防止の実務

標準労務費とは、建設工事において「現場で働く技能者へ適切に支払われるべき労務費の目安(指標)」を示すものです。
建設業における「標準労務費」は、技能者の適正な賃金確保や、元請・下請間での労務費へのしわ寄せを防ぐ観点から注目されてきた考え方です。
現在、制度上の正式名称は「労務費に関する基準」とされており、建設工事の見積りや契約、価格交渉の実務にも関わる重要なテーマとなっています。
建設業では人手不足が深刻化する一方、賃上げや資材価格上昇への対応も求められています。適正な労務費を確保するには、工事原価を把握し、見積りから契約、下請発注まで一貫して管理できる体制づくりが重要です。
この記事では、標準労務費(労務費に関する基準)の意味や導入された背景、算出・見積りの考え方、下請契約で労務費へのしわ寄せを防ぐために建設会社が押さえておきたい実務対応をご紹介いたします。
標準労務費とは?
まずは、「標準労務費」の基本的な定義や対象範囲、従来の単価との違いを確認しておきましょう。
正式名称は「労務費に関する基準」
「標準労務費」は、正式名称を「労務費に関する基準」といいます。
建設業界においては、技能労働者の賃金原資となる適正な労務費を確保するため、標準労務費について長年議論されてきた課題です。
2024年(令和6年)に成立した改正建設業法(第三次・担い手3法)を経て、2025年12月の法全面施行とともに具体化・本格運用が始まりました。
建設工事において「現場で働く技能者へ適切に支払われるべき労務費の目安(指標)」を示すものであり、元請・下請間での不当な叩き合いを防止し、技能者の処遇改善を実現するための国家的な取り組みとして位置づけられています。
公共工事設計労務単価との違い
「公共工事設計労務単価」と「標準労務費(労務費に関する基準)」は、目的や適用場面が異なります。
公共工事設計労務単価とは、発注者(国や自治体)が公共工事の「予定価格」を算出するために設定する積算用単価です。
市場の実勢調査をもとに毎年改定されますが、民間工事の契約を直接、拘束するものではありません。
一方、標準労務費(労務費に関する基準)は、民間工事を含めたすべての建設工事の見積り・契約・交渉の指針となるものです。
市場の実勢を追認するだけでなく、「職人に支払われるべき適正な賃金水準」を担保するために提示される取引上のルールという側面を持ちます。
標準労務費が対象とする範囲
標準労務費の適用範囲は、以下の通りです。
元請(特定元方)と下請のすべての契約
発注者と元請間だけでなく、元請と一次下請、さらには二次・三次といった再下請まで、建設工事に関わるあらゆる階層の請負契約・見積交渉が適用の対象となります。
民間工事(公共工事だけではない)
従来の公共工事向け基準にとどまらず、民間発注の建築・土木工事を含むすべての建設工事が対象です。
これにより民間取引における労務費削減圧力を抑止します。
技能者の職種・地域ごとの基準額
とび、型枠、鉄工などの「職種」や、施工を行う「地域(都道府県・ブロック等)」ごとの実勢・生活水準を踏まえた基準額が提示されます。
これにより、現場の実態に則した客観的な単価設定や評価が可能となります。
なぜ標準労務費が必要?改正建設業法と制度導入の背景
労務費に関する基準が設けられた背景には、建設業が抱える構造的な課題があります。
国土交通省は、改正建設業法の大きな柱として「処遇改善」「資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止」「働き方改革と生産性の向上」を掲げています。
人手不足が続く中で建設業を持続可能な産業としていくには、単に工事価格を抑えるだけではなく、適正な賃金を支払える取引環境をサプライチェーン全体で整える必要があるためです。
建設技能者の処遇改善と担い手確保のため
建設業にとって大きな経営課題の一つが、人材の確保です。
建設工事を担う技能者を将来にわたって確保するには、仕事に見合った賃金を支払える環境が欠かせません。
しかし、従来の建設工事では技能者の労務費に関する相場観が明確ではなく、価格交渉の過程で労務費が削減されるケースが課題となっていました。
そこで改正建設業法では、建設業者に労働者の処遇確保を努力義務として課すとともに、労務費に関する基準を制度化しました。
技能者の賃金原資となる適正な労務費を請負契約で確保し、それを下請階層まで行き渡らせることが、担い手確保の土台となります。
資材価格高騰の労務費へのしわ寄せを防ぐため
建設工事では、鋼材や木材、燃料をはじめとするさまざまなコストが変動します。
請負金額が変わらないまま資材価格だけが上昇すれば、施工会社はどこかの費用を圧縮しなければ採算を維持できません。
その際、比較的調整しやすい労務費に負担が集中すると、技能者の賃金原資が損なわれてしまいます。
こうした問題を防ぐため、改正建設業法では資材高騰など請負代金や工期に影響を及ぼす事象について、契約前の通知や、請負代金の変更方法に関するルールが整備されました。
契約後に資材高騰などが顕在化し、受注者が契約変更の協議を申し出た場合のルールも設けられています。
「資材価格が上がったので人件費を削る」という調整ではなく、必要なコストを適切に把握し、契約金額そのものについて協議する姿勢が重要になります。
労務費の相場を明確にして適正な価格交渉につなげるため
これまでは、下請会社が「人件費が上がったため値上げして欲しい」と元請に交渉しようとしても、客観的な基準がなかったため「業界の相場」で低価格で押し切られる傾向がありました。
国が公的な「基準」を示したことで、下請会社が根拠を持った価格交渉(価格転嫁)を行いやすくなります。
建設業の持続可能性と生産性向上につなげるため
労務費を極端に削減するダンピング受注が横行すると、品質低下や安全管理の不備、ひいては企業の倒産や廃業を招きます。
建設業というインフラを支える基幹産業の持続可能性(サステナビリティ)を守り、適正価格による健全な市場競争へシフトさせるために標準労務費が不可欠とされました。
標準労務費で変わる建設工事の見積り・契約実務
改正建設業法の施行に伴い、建設工事の見積りや契約実務に変化が生じます。
元請・下請を問わず、以下の対応が求められるようになりました。
見積書で適正な労務費を算出・明示する
工事の見積りを作成する際には、技能者の賃金原資となる労務費を適切に算定し、その内訳や算定根拠を把握できるようにすることが重要です。
労務費を算定する際の参考となるのが、国が工種ごとに示す「労務費の基準値」です。
労務費の基準値は、公共工事設計労務単価に、標準的な作業に必要な労働量を示す「歩掛」を乗じることを基本として設定されています。
ただし、労務費の基準値はすべての工事にそのまま適用する価格表ではありません。
実際の見積りでは、基準値を参照しながら、工事ごとの作業内容や施工条件などを踏まえて適正な労務費を算定します。
また、建設業者が工事種別ごとの材料費や労務費などを記載した「材料費等記載見積書」を作成するよう努めることとされています。
労務費を他の費用に埋没させず、価格交渉の際に算定根拠を説明できるようにしておくことが重要です。
著しく低い労務費による見積り・変更依頼を避ける
改正建設業法では、「労務費に関する基準」などに照らして通常必要と認められる労務費等を著しく下回る見積りや、そのような水準への見積変更要求が禁止されています。
また、契約段階についても、通常必要と認められる原価を下回る請負代金による契約を制限する規定が設けられています。
不当に低い金額での叩き合いは法令違反のリスクを伴います。
受注者側も原価割れとなる請負契約に注意する
従来から、元請負人が取引上の地位を不当に利用し、通常必要と認められる原価を下回る金額で下請契約を締結することは禁止されてきました。
改正建設業法では、受注者側についても、正当な理由なく通常必要と認められる原価を下回る請負契約を締結することを禁止するルールが導入されています。
そのため、「赤字でも受注量を確保したい」「今後の取引につなげるため今回は安く受ける」といった営業判断についても、従来以上に慎重な確認が必要でしょう。
企画・経営部門では、受注額だけをKPIとするのではなく、粗利益、労務費、外注費などを含めた工事採算を確認できる仕組みを整えることが重要になります。
元請・下請双方で見積りと契約内容を確認する
見積提出後の契約交渉では、提示された労務費が「現場の技能者に適切に行き渡るものになっているか」を双方で確認する必要があります。
曖昧な取り決めや口頭での契約変更を避け、書面に基づいて合意を形成するフローを徹底しましょう。
下請契約で「労務費へのしわ寄せ」を防ぐためのポイント
発注者も元請会社も、下請契約で「労務費へのしわ寄せ」を防ぐために、以下の4つのポイントを押さえましょう。
下請会社から提出された労務費を一律に削減しない
「受注者側も原価割れとなる請負契約に注意する」でお伝えしたように、下請会社側から「仕事を確保したいから」といって自ら極端な安値を提示し、技能者の給与を削るような請負契約を結ぶことも厳しく問われます。
受注者(下請側)であっても、適切な労務費が含まれていない原価割れの契約に応じない姿勢が求められます。
元請から下請、再下請まで適正な労務費を確保する
元請から一次下請、さらに下位の下請契約においても、それぞれの契約段階で適正な労務費が確保されることが重要です。
元請会社においても、自社が適正な金額で発注するだけで終わらせず、施工体制全体で技能者へ適正な賃金の支払いが行われるよう、協力会社への周知や取引状況の確認などに取り組むことが望まれます。
価格交渉の機会を設けて協議内容を記録する
資材高騰や工期変更が発生した場合、発注者側は下請会社側からの価格交渉の申し出に対して誠実に応じる協議の場を設けましょう。
「いつ、どのような根拠で交渉を行い、どう合意したか」を書面やシステム上に記録として残しておくことが、コンプライアンス上も重要です。
資材費やその他経費への新たなしわ寄せにも注意する
「労務費は減らさない代わりに、安全衛生費や法定福利費、現場経費をカットする」といった施工に必要な他の経費を不当に圧縮することのないよう注意が必要です。
すべてのコスト項目を適正に評価・契約することが求められます。
標準労務費への対応で建設会社に求められる社内管理
標準労務費(労務費に関する基準)に則した見積りや適正な取引を行うためには、自社の「原価管理」および「社内情報の連携体制」の強化が不可欠です。
感覚的な経営から抜け出し、根拠ある数値管理へ移行するためのステップを解説します。
工事ごとの労務費・材料費・外注費などの原価を把握する
適正な価格交渉の前提となるのが、自社の原価を正確に把握することです。
たとえば、請負金額1億円の工事で最終的に利益が残ったとしても、労務費が予算を超過したのか、材料費が想定より上昇したのか、外注費が増えたのかがわからなければ、次の見積りを改善できません。
工事ごとに少なくとも、
- 労務費
- 材料費
- 外注費
- 経費
- 予算原価
- 実績原価
- 請負金額
- 粗利益
などを把握できる状態を目指したいところです。
特に労務費については、過去の金額をそのまま次回の見積りに流用するのではなく、最新の単価や施工実績を反映できる仕組みが重要になります。
見積・受注・発注・原価情報を一元管理する
建設会社では、「見積りは表計算ソフト、工事台帳は別のシステム、下請発注は紙、会計処理は会計システム」というように、情報が分散しているケースがあります。
情報が分散すると、見積時点の労務費と実際に発生した原価を比較するために、担当者が複数の資料を集めなければなりません。
また、営業部門では利益が出ると判断した工事でも、施工開始後に原価が膨らみ、経理が数字を把握したときには既に赤字になっていた、といった問題も起こり得ます。
見積、受注、実行予算、発注、原価、請求、会計まで情報をつなぐことで、「見積時点で想定した利益」と「現在の利益見込み」を比較しやすくなります。
労務費に関する基準への対応をきっかけに、工事情報の管理方法そのものを見直すことも有効です。
予算と実績の差異を把握して採算管理につなげる
適正な労務費を見積りに反映しても、施工中に原価が大きく変動することがあります。
そのため、重要になるのが実行予算と実績原価の比較です。
たとえば、労務費の予算が1,000万円だった工事で、施工途中の実績と今後の見込みから1,200万円まで増える可能性があるとわかれば、早い段階で原因を確認できます。
追加作業が発生したのであれば契約変更の対象にならないかを確認し、施工効率が想定を下回っているのであれば工程や人員配置を見直す、といった判断につなげられます。
工事完了後に赤字を知るのではなく、施工途中で予算と実績の差を把握することが重要です。
企画・営業・工事・経理部門で原価情報を共有する
労務費への対応を一部の担当者だけに任せると、部門ごとに判断基準が異なる可能性があります。
たとえば、営業部門は受注を優先して価格を下げたい一方、工事部門は適正な施工のため十分な予算を確保したい、経理部門は利益率を重視するといったように、立場によって見る数字が変わります。
そこで重要になるのが、共通のデータをもとに判断できる環境です。
見積段階の原価、実行予算、発注額、実績原価、完成見込原価などを部門横断で共有できれば、営業担当者も「この価格を下回ると必要な労務費を確保できない」と判断しやすくなります。
経営企画部門も、工事別の採算や原価の推移を把握することで、受注方針や価格戦略、協力会社との取引方針を検討しやすくなるでしょう。
まとめ:標準労務費への対応は「適正な労務費を把握できる経営管理」から
標準労務費は現在「労務費に関する基準」という正式名称で制度化され、公共・民間工事を問わず、建設工事の各取引段階で適正な労務費を確保し、技能者の処遇改善につなげることを目指しています。
建設会社には、基準を知るだけでなく、適正な見積り、価格交渉、下請契約、工事原価管理まで一体的に見直すことが求められます。
労務費・材料費・外注費などを工事別に把握し、予算と実績を継続的に確認できる管理体制を整えることが、適正な価格転嫁と安定した収益確保の第一歩となるでしょう。
建設業界で発生する、こうした工事情報の一元管理を支援する方法の一つが、建設業向けERPの活用です。
たとえば、建設工事業向けERPソリューション「ガリバーシリーズ」では、建設業特有の業務を踏まえ、工事に関わる情報を一元的に管理するための仕組みを提供しています。
標準労務費(労務費に関する基準)への対応を契機として、見積りから受注、発注、原価、会計までの情報管理を見直したい企業は、システム活用を含めて検討してみると良いでしょう。
「ガリバーシリーズ」各製品について詳しくは、下記公式サイトをご覧ください。






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